2011/08/27

富士吉田への一日たび

先週金曜日、IFFでお知り合いになったriyahamの小松さんのお誘いで、
台東区デザイナーズビレッジの方達の織物産地工場見学ツアーに参加させていただきました。


行き先は、山梨県の富士吉田市。
富士山のふもとの街です。
ここは、江戸時代から絹と絹織物の産地。
群馬県の桐生や冨岡と並んで、江戸を取り囲むようにして発展した産地のひとつです。


標高760mということで 空気が澄んでいて とても透明な匂いのする場所でした。


まずは一同、富士吉田に到着後、富士浅間神社へお参り。
有名な富士吉田のおうどんもいただき、いざ 見学へ。


まずは富士工業技術センターで 「絵甲斐絹」(えかいき)という、
江戸時代末から昭和初期にかけて全国的に知られていた 羽織の裏地を見せていただきました。
贅沢禁止令が出ていた当時、おしゃれを発揮できたのが 着物の裏地でした。


あまりの美しさに ぽうっとなって眺めていて 
この絵甲斐絹の写真を撮ってこなかったのが ほんとうに悔やまれます。


甲斐絹は、極細の絹糸を高密度で織ったものですが、この手法がほんとに気が遠くなるほどの手の込みよう。
まずは 織り機に縦糸だけを張り、織り機に張った状態で そこに版画のように絵を刷り、
その後 先染めされた横糸を通して織り上げていきます。
そして織り上がった生地に また絵を刷り 完成させていきます。
せいぜい30㎝ほどの ぴんと張られた縦糸に絵を刷っては織り、そしてまた刷っては織り、を繰り返す行程。
考えられないほどの手間と時間がかかります。
その見た目は、まるで 3Dの画面を見ているように、何枚も絵が重なり 奥行きのある空間が一枚の薄い布の中にありました。
見る角度や方向を変えると、絵が浮き出たり、消えたりととても不思議で美しいものでした。


裏地で粋を表現したり、おしゃれ心を満たすのは、今も昔もかわりなく
なんだか 100年ほど前の人に この布の前で触れ合えた気がしました。




そしていよいよ 現場へお邪魔させていただきました。
舟久保織物さん、オヤマダさん、渡小織物さん、田辺織物さんの工場を見せていただきました。
貴重な現場を見せて下さり、本当にありがとうございました。


「ほぐし織」という 絵甲斐絹を発展させた製法で 今も作っていらっしゃる舟久保織物さん。
ほぐし織は、縦糸に間隔をあけて緯糸を通し 仮織りをしたものに型染めをし、
仮織りの緯糸をはずしながら 本織りをする製法。
この仮織りの緯糸をはずす=ほぐす、ということから この名前がついているそうです。
横にほそーく渡されているのが 緯糸。仮織りの状態です。
仮織りに絵がつけられたもの
緯糸をはずし(ほぐし)ながら織られていきます
このほぐし織りも そうとうの時間と手間がかかるため、とても高級な生地です。
職人さんの魂が込められた生地でした。

オヤマダさんでは、ドビー織機を見せていただきました。
シャンシャンシャンと 規則正しい音をたてて
レピアと呼ばれる緯糸を運ぶものが 縦糸の間を左右に往復するさまは
見ていて飽きないものでした。
往復するたびに、少しずつ少しずつ数㎜ずつ 生地が織り上がっていくのを見ていると、
当たり前のことなのだけれど、布はこうして 縦糸と緯糸の素材、色、織り方、
この組み合わせによって 表情を変え、性質を変えることができるということを改めて実感しました。
なんと 奥深いこと。
これは 染色した糸を巻き取る機械
ドビー織機
これは 柄の情報が打ち込まれた紋紙というもの

紋紙は、穴のあるなしによって どの縦糸を上に持ち上げるかの情報が組み込まれたもの。
情報 とはいえ、機械が自動で穴をあけるのではなく、
どのような柄にするかを タイプライターのようなこの機械を使って 職人さんが打ち込んでいくのです。
打ち込んだあと、オルゴールのように取手をぐるぐる回すと、
パンチのように穴があいてこの紋紙が生まれてきます。
この紋紙一枚にも 職人さんのセンスと技術が詰まっています。


渡小織物さんではネクタイのできる現場を見学。
4色ずつの縦糸
ネクタイは、200㎝を4つにわけ、50㎝ずつの生地を織り上げていくそう。
工場内 ところ狭しと置かれた艶やかな絹糸の巻きを見ているだけでも ため息がでました。


最後にジャカード織機で座布団等の生地を作られている 田辺織物さんへ。
まず 圧巻なのが ジャカード織機。


まるで編み目のように無数に垂らされた糸が 一本ずつ縦糸につながっているのです。そして先ほどの 紋紙を使い、縦糸を一本ごと自在に動かし柄を作っていきます。
(最新式のものでは、紋紙なくともコンピューターのデータによって制御できるものもあります。)

少しずつ少しずつ織られていく座布団の生地


これまで 布帛の織り機を見る機会がなく、ずうっと見てみたいと思い続けていたので
この機会をいただけて、本当にありがたく思っています。
富士吉田のみなさんは ものを作る目は厳しくとも 優しく明るくユーモアたっぷりで
とても素敵な方々でした。


織られている現場と、職人さんたちに触れると、
いままで 開けられていなかった部屋の扉がぱん、っと開いた気がしました。
本当は、ものを作る というのは ただ形を作ることではなく、
糸一本から 思いを込めて選び、染め、撚りをかけ、どの色合わせで、どの織り方で、と 
すべてに思いを織り込み 積み重ねるように作り上げていくことから始まるのだ、と
あらためて知り、そこにこそ 魅力があるし、それをしてこそのものづくりだと思いました。




最後に、今回デザイナーズビレッジのメンバーではないにも関わらず、
快く承諾してくださったデザイナーズビレッジ村長の鈴木さんと
お誘いくださったriyahamの小松さんに感謝します。


ありがとうございました!











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