台東区デザイナーズビレッジの方達の織物産地工場見学ツアーに参加させていただきました。
行き先は、山梨県の富士吉田市。
富士山のふもとの街です。
ここは、江戸時代から絹と絹織物の産地。
群馬県の桐生や冨岡と並んで、江戸を取り囲むようにして発展した産地のひとつです。
標高760mということで 空気が澄んでいて とても透明な匂いのする場所でした。
まずは一同、富士吉田に到着後、富士浅間神社へお参り。
有名な富士吉田のおうどんもいただき、いざ 見学へ。
まずは富士工業技術センターで 「絵甲斐絹」(えかいき)という、
江戸時代末から昭和初期にかけて全国的に知られていた 羽織の裏地を見せていただきました。
贅沢禁止令が出ていた当時、おしゃれを発揮できたのが 着物の裏地でした。
あまりの美しさに ぽうっとなって眺めていて
この絵甲斐絹の写真を撮ってこなかったのが ほんとうに悔やまれます。
甲斐絹は、極細の絹糸を高密度で織ったものですが、この手法がほんとに気が遠くなるほどの手の込みよう。
まずは 織り機に縦糸だけを張り、織り機に張った状態で そこに版画のように絵を刷り、
その後 先染めされた横糸を通して織り上げていきます。
そして織り上がった生地に また絵を刷り 完成させていきます。
せいぜい30㎝ほどの ぴんと張られた縦糸に絵を刷っては織り、そしてまた刷っては織り、を繰り返す行程。
考えられないほどの手間と時間がかかります。
その見た目は、まるで 3Dの画面を見ているように、何枚も絵が重なり 奥行きのある空間が一枚の薄い布の中にありました。
見る角度や方向を変えると、絵が浮き出たり、消えたりととても不思議で美しいものでした。
裏地で粋を表現したり、おしゃれ心を満たすのは、今も昔もかわりなく
なんだか 100年ほど前の人に この布の前で触れ合えた気がしました。
そしていよいよ 現場へお邪魔させていただきました。
舟久保織物さん、オヤマダさん、渡小織物さん、田辺織物さんの工場を見せていただきました。
貴重な現場を見せて下さり、本当にありがとうございました。
「ほぐし織」という 絵甲斐絹を発展させた製法で 今も作っていらっしゃる舟久保織物さん。
ほぐし織は、縦糸に間隔をあけて緯糸を通し 仮織りをしたものに型染めをし、
仮織りの緯糸をはずしながら 本織りをする製法。
この仮織りの緯糸をはずす=ほぐす、ということから この名前がついているそうです。
横にほそーく渡されているのが 緯糸。仮織りの状態です。 |
仮織りに絵がつけられたもの |
緯糸をはずし(ほぐし)ながら織られていきます |
職人さんの魂が込められた生地でした。
オヤマダさんでは、ドビー織機を見せていただきました。
シャンシャンシャンと 規則正しい音をたてて
レピアと呼ばれる緯糸を運ぶものが 縦糸の間を左右に往復するさまは
見ていて飽きないものでした。
往復するたびに、少しずつ少しずつ数㎜ずつ 生地が織り上がっていくのを見ていると、
当たり前のことなのだけれど、布はこうして 縦糸と緯糸の素材、色、織り方、
この組み合わせによって 表情を変え、性質を変えることができるということを改めて実感しました。
なんと 奥深いこと。
これは 染色した糸を巻き取る機械 |
ドビー織機 |
これは 柄の情報が打ち込まれた紋紙というもの |
情報 とはいえ、機械が自動で穴をあけるのではなく、
どのような柄にするかを タイプライターのようなこの機械を使って 職人さんが打ち込んでいくのです。
打ち込んだあと、オルゴールのように取手をぐるぐる回すと、
パンチのように穴があいてこの紋紙が生まれてきます。
この紋紙一枚にも 職人さんのセンスと技術が詰まっています。
渡小織物さんではネクタイのできる現場を見学。
4色ずつの縦糸 |
工場内 ところ狭しと置かれた艶やかな絹糸の巻きを見ているだけでも ため息がでました。
最後にジャカード織機で座布団等の生地を作られている 田辺織物さんへ。
まず 圧巻なのが ジャカード織機。
まるで編み目のように無数に垂らされた糸が 一本ずつ縦糸につながっているのです。そして先ほどの 紋紙を使い、縦糸を一本ごと自在に動かし柄を作っていきます。
(最新式のものでは、紋紙なくともコンピューターのデータによって制御できるものもあります。)
少しずつ少しずつ織られていく座布団の生地 |
これまで 布帛の織り機を見る機会がなく、ずうっと見てみたいと思い続けていたので
この機会をいただけて、本当にありがたく思っています。
富士吉田のみなさんは ものを作る目は厳しくとも 優しく明るくユーモアたっぷりで
とても素敵な方々でした。
織られている現場と、職人さんたちに触れると、
いままで 開けられていなかった部屋の扉がぱん、っと開いた気がしました。
本当は、ものを作る というのは ただ形を作ることではなく、
糸一本から 思いを込めて選び、染め、撚りをかけ、どの色合わせで、どの織り方で、と
すべてに思いを織り込み 積み重ねるように作り上げていくことから始まるのだ、と
あらためて知り、そこにこそ 魅力があるし、それをしてこそのものづくりだと思いました。
最後に、今回デザイナーズビレッジのメンバーではないにも関わらず、
快く承諾してくださったデザイナーズビレッジ村長の鈴木さんと
お誘いくださったriyahamの小松さんに感謝します。
ありがとうございました!
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